「…私、月森先輩のことが好きです!!」
震える手で差し伸べられたそれは。




君に出会って変わったこと




人影の無い放課後の音楽科校舎裏。
秋の気配もすっかり濃くなり、木々の色も鮮やかで綺麗だ。
そんな木々の色よりもさらに顔を真っ赤にした女生徒が、うつむいたまま俺の目の前に白い封筒を差し出している。
どうして俺がこんな場所に来たかといえば、今朝下駄箱に入っていた一枚のメモのせいだった。


メモには短く一言。
「今日、放課後音楽科の校舎裏に来て下さい」


そこで待っていたのは、音楽科の制服を着た名前も知らない女生徒だった。
タイの色で一年生だと分かる。


俺は可哀想なくらい震えている彼女の手から、そっと封筒を受け取った。
彼女はほっと安堵したように、息を吐くと顔を上げた。


「…有難う、この手紙は大切に読ませてもらう。…でも、俺は大事に想っている人がいる」


そう告げると、彼女は一瞬戸惑うような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「…知ってます!最近の月森先輩の演奏、すごく音色が豊かになったっていうか、素敵になりました!…そんな月森先輩だから、私好きになったんです」
彼女は目に涙をいっぱい溜めて言った。
「この気持ち、伝えたかっただけなんです!…大事にしてあげて下さい、その人のこと」
彼女はそう言うと、走って校舎のほうへいってしまった。


しばらく俺は、その手紙を開封せずに眺めていたが、気配を感じて振り返った。
「…あー…。」
土浦が、頭を掻きながら校舎の影から出てくる。
「…立ち聞きとはいい趣味だな」
「わざとじゃねーよ。ここからが外から普通科から音楽科に来る近道なんだよ。普通科から音楽科に近道するヤツなんてそういないだろ。まさかこんな所に人がいるとは思わなくてな。…悪かったよ」
俺は手紙をそっと制服のジャケットの内ポケットにしまった。
「今度は捨てないんだな」
土浦は意外そうに言った後、はっと息を呑む。
「…どういう意味だ」
「…あー、いや、前にもらった手紙を読まずにゴミ箱に捨てた、っていう噂があってな。今の失言」
土浦は髪をかきあげながら言った。


俺は思わず制服の上からもらった手紙をそっとおさえる。
…そういえば、そんなことがあった。
今なら気持ちのこもった手紙を捨てるなんてありえないことだ。
それは、誰かを想う気持ちの尊さ、愛しさを知っているから。
それを教えてくれたのは…彼女だ。
俺の音楽が変わったというのなら、それは彼女のおかげだ。


黙ったままの俺に、土浦は言った。
「なあ、お前の大事なヤツって…いや、何でもない。じゃーな」
そう言うと、音楽科の校舎の方に消えていく。


俺の気持ちは彼女に届いているだろうか…?
言葉にするのは不器用だから、ヴァイオリンにのせて気持ちを伝える。
そして、今日も、日々つのる想いを形にするべく俺は練習室へと足を向けた。









<あとがき>
1,000HIT御礼としてUPしたものです。
私自身、HPを作り、立ち上げてからいろいろ変わったし、個人的に考えさせられることもありました。
でも、皆様のご来館と拍手などで力をたくさん頂いております!!
作中の月森と重ねて、これもひとえに皆様のおかげと感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました!

3,000HIT




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