※この話は1000HIT月森創作「君に出会って変わったこと」から続いています。
土浦SSとして単品でももちろん読めますが、そちらの方もよろしかったら読んで頂ければ嬉しいです。



音楽科の校舎は、やっぱり何度来ても苦手だ。
コンクールですっかり顔を知られてからは、さらに好奇の目で見られているように感じる。
ため息をひとつついて音楽室の扉を開けると、自分を呼び出した張本人はおろか、人ひとりいなかった。
一応、音楽準備室も覗いてみるが、やはり人の気配は無い。
「…金やんのヤツ、人を呼び出しといてこれかよ…」
頭をかいて、ため息をつく。


ふと、思いついて音楽室の前の方にある、グランドピアノの前に腰を降ろして蓋を開けた。




ひらかれしその扉は




ポーン、と鍵盤の一つを指で叩く。
…月森のヤツ、変わったよな…。
以前は誰も寄せ付けないような神々しさ、毅然とした演奏だった。
だが、今は音色に深みがあり、豊かさがある。
あいつをそんな風に変えたのは、何だろうな…。


ゆっくりと、ピアノの鍵盤を叩き出す。
−「ラ・カンパネッラ」。
俺にとっては因縁の曲だ。
今は、何の躊躇も無くこの曲を演奏できる。
…変わったのは、俺も同じか。


ピアノが嫌いになった訳ではなかった。
年齢や経験で正当に評価されないコンクールの矛盾。
そんなものに、自分の価値を決められたくはなかった。
今思えば、そんなものはどうでもいいことだ。
ただ、純粋にピアノを弾くことが好きだった子供の頃の気持ちを忘れていた。


…あいつの演奏は、本当にいつも楽しそうだな。


第一セレクションの時。
思えば、あいつに巻き込まれたのが始まりだった。
初めて出会った時は、階段から落ちそうになってたな。
ふと笑みがこぼれる。
あいつと一緒にいると、いつもあわただしくて、振り回されて、退屈している暇なんてないんだ。


…あいつがいたから。


今こうしてまたピアノに向き合うことが出来た。
忘れていたあの頃の気持ちを、取り戻すことが出来た。


−そして。
新たなる扉をまた一つ、俺は開けようとしている。


最後の一音を弾き終わると、どこからともなく拍手が聞こえてきた。
「いや〜情熱的な演奏だったなあ。…弾きながら何ニヤニヤしてたんだ?」
いつの間にか、金やんが半分開いた音楽室の入り口にもたれかけ、笑いながら腕組みをしてこっちを見ていた。
俺は無言でピアノの蓋を閉じると、金やんに向かって歩き出した。
すれ違いざま、持ってきたノートサイズの紙を押し付ける。
「…これが俺の答えだから」


そのまま、金やんが内容を確認するのを確かめず、音楽室を後にする。
再びひらかれた音楽への道。
願わくは、歩む道があいつと共にあるように。
そして再び目にした音楽科の生徒に、俺も来年からあの制服を着ることになるのか、と今から重いため息をついたのだった…。









<あとがき>
3,000HITありがとうございました!!
こういうリレー方式は前からやりたかったので、いい感じでまた繋げていけるといいな、と思っています。
ありがとうございました!

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