吉羅の運転する赤いスポーツカーは、湾外沿いをゆっくりと走っていた。
太陽の光が水面に反射して、きらきらと輝いて綺麗だ。
…思わず、車に乗ってしまったけど。
出掛けることは、誰にも言っていない。…ヒロトが探しているかもしれない、携帯だって部屋に置きっ放しだ。
例のスキャンダル記事は発行前に止めた、と言っていた。この人は、知らないだろう。
運転席の彼を横目でちらりと覗き見ると、涼しげな顔でハンドルを握っていた。
彫りの深い、整った顔をしている。これなら、女の子達が騒ぐのも無理は無い、と思う。
「私の顔に、何か付いているかね?」
「あ!!いえ!!…えっと、吉羅さんは、どうしてうちの前に居たんですか?」
丁度赤になった信号で車は静かに止まる。彼は私に顔を近づけて言った。
「君に逢いたかった…では、納得できないかな?」
―え。今、何て。
一拍置いて、彼は前に向き直って青信号で車を発進させた。からかわれたのだ、と思って赤くなる。
「…冗談はやめて下さい!!」
あまり良い趣味の冗談ではない、と思う。
「―冗談、ね。お友達の家へ行きたいんだったね。…その前に、寄りたいところがある。少し、いいかね」
「あ…はい」
好意で車に乗せてもらっているのだから、仕方ないだろう。
本当は、今すぐにでも菜美の所へ行きたい気持ちをぐっと抑えて、助手席のシートにもたれ掛かった。




4.quarto




連れて行かれた所は、思いがけない場所だった。
星奏学院、森の広場。しかも、吉羅と初めて出会ったあの場所である。
休日の学校には全く人が少ない。
「…吉羅さん。ここに何が―」
「ここはね。私にとって特別な場所、なのだよ」
ざあっ、と一陣の風が吹き抜ける。風が、頬を静かに撫でる。
「私は、かつてこの星奏学院の生徒だった」
「吉羅さんが!?ここの卒業生なんですか?」
私の言葉に、彼は頷く。
「君も身を持って知っているだろう。この学校は、家柄、保護者の経済力、寄付金、それら生徒の能力の与り知らぬ所で優劣を付けられている。たとえどんなに問題を起こすような生徒だったとしても、親の圧力、という理由だけで教師は黙殺する。逆もまた然り」
―その言葉に俯く。
私にも覚えがある。幼稚園の頃、祖父が一代で財を成したせいか、家柄の良い同級生から謗られたことがあった。人見知りの一因となった出来事だ。
「私はね、この学院を嫌悪していた。金で左右される教師。家の権力を笠に奔放に振舞う生徒。何もかもが汚い、最低の学校。早く、卒業したいと常々思っていた。…そんな私を救ってくれたのはこの場所と、姉だった」
愛しむように、その場所を見つめる。彼の、こんな表情は初めて見る。
「姉は、二つ年上でやはりこの学院に通学していた。…元々、体の弱い人でね。家にいるときは大概床に臥せっていることが多かった。そのせいであまり学院に通うことは出来なかったが、元気な時は、時折彼女と昼休みにほんのひと時ここで過ごすのが習慣だった。その時間が、この学院にいる唯一の安心できる時間だった。―その姉も、私が在学中に亡くなったがね」
最後の言葉を紡ぐ彼の瞳が、暗く翳るのを見た。ぐらり、と心を動かされる。
「…どうして、私にそんな話を?」
彼は、目を閉じてふっと笑った。
「何故だろうね。君に、此処で出逢ったこともこんな話をしてしまうのも運命なのかもしれない」
―『運命』。この掴みどころの無い彼の口から発せられた甘い言葉は、毒のように体中を駆け巡る。
そっと、右手で香穂子の頬に触れた。


「―初めて此処で逢った時から、君が好きだ」


冗談、と笑い飛ばそうとして、彼の瞳が暝く光るのを見る。
触れられた手が、酷く冷たくて驚く。
熱い熱を持って触れた手は、誰の手だろう。
そう思って思い出したのは、いつも私を守ってくれる大きくて温かい手。―そう、私はあの手が大好きだった。


そっと俯いて、吉羅の手から離れた。
「…ごめんなさい。私、好きな人がいるんです」
叶わない恋かもしれない。それでも。
彼以外の人、なんて考えられない。


暫くの沈黙の後。
彼は、おもむろに口を開いた。
「―本気かね」
「え…?」
彼の質問の意味を理解できず、聞き返す。




「本気で、君は執事―金澤紘人を慕っているのかね」




「…何で、知って…」
「君の事を少し調べさせてもらった」
彼を見上げると、先程の寂しげな表情は無かった。どこかでその瞳を見た、ような気がした。
「日野香穂子、星奏学院2学年在籍。祖父は日野グループ会長。執事の金澤紘人はその祖父がイタリア出張中に執事として雇用。彼女が星奏学院幼等部に在籍中に孫娘付きの専属執事として着任。以来、彼女の教育の一切を引き受ける」
全身が震えた。
「…私のこと、知ってたの…?」
「ああ、最初から。一番の友人は、幼等部から星奏学院に通う、天羽菜美」
―そうだ。舞踏会で意識を失う瞬間見た、瞳だ。
スーツの内ポケットから、四角く折りたたまれた紙を出す。
「彼女にこれを撮るように指示したのは、私だよ」
そこには。
『交際発覚!!吉羅財閥の御曹司・吉羅暁彦―日野グループ会長の孫娘・日野香穂子』と書かれた文字と、昨夜の舞踏会の写真があった。


「…う、そ…」
「最近、天羽新聞社は経営が傾いてきていてね。我が社と経営提携を結ぶ代わりに、舞踏会で私と君の写真を撮り、そのスキャンダル記事を新聞に載せるよう指示した。―君のお祖父さんの働きで、その計画も無駄に終わったがね」
足元が、ふらつく。
「どう…して、そんなこと…」
手首を、乱暴に掴まれた。
「君が欲しいからに、決まっている」
赤茶色の瞳は、真っ直ぐ私を見ているようで、決して見ていない。それなのに、その口で私の心を掻き乱す。
「君のことが好きだから」
―嘘だ、と思った。愛しい人を見る時、そんな傷付いた瞳で見る人はいない。
「―嘘。貴方が欲しいのは、私では無く、日野の名前でしょ」
瞳が、見開かれる。
「…これは、驚いた。流石にただの世間知らずのお嬢さん、では無いようだね。―そうだ、私が欲しいのは君個人では無く、日野グループだ」
嘲るように、笑う。
「スキャンダル記事をでっち上げ、世間に認識させて断れないようにしてから日野家に君との縁談を持ち込もうとした。政財界とは、常に面子を重んじるからね。君と結婚、ということになれば日野グループと縁が出来る。君も、吉羅財閥なら結婚相手として不足は無いんじゃないかね?」
その言葉に、カッと赤くなる。
「バカにしないで!!自分の結婚相手くらい、自分で決めます!!」
「―君の、執事とかね?」
その言葉に、我に返る。
「執事と結婚、なんて許されると思うのかね。…君は、もう少し日野家の人間として現実を見たほうが良い」
「あ、貴方には関係ないわ!!」
「日野グループ会長の直系の孫として、執事と結婚、なんてことが本当に許されると思っているのかね?我がままは大概にしたほうが良い―そもそも、君の執事は、本当に君個人を愛しているのかね?」
そんなこと、分からない。
「彼は、君が日野家の令嬢だから慕ってくれているのではないかね。それとも、日野グループに付け入ろうとしているのかもしれない」
―やめて。聞きたくない。
「君は自分の立場をわきまえた方が良い。君の親友だって、君が日野家の人間だから付き合っていたのかもしれない。―そういう人間が君の周りには多く集まる、ということを忘れては―」
その瞬間。
私の右の平手が彼の左頬を打った。
静かな森を切り裂くように、張り詰めた音がする。
「―私の友達を、悪く言わないで―」
彼は、打たれた左頬を押さえた。
「私は、私の親友を信じてます!!日野家の人間だっていう自覚もある、つもりです。そういう心無い人がいる、っていうのも分かってる。でも、私は信じたい。だって、私が信じた人、だから」
彼は、吃驚したように私を見た。―こんな考え彼からしたら愚かだ、と思われるだろう。それでも。
「私は、もっともっと頑張って、お爺様に日野家の一員として認めてもらえるようになります。そして、誰にも文句を言わせないよう強くなって自分の道は自分で決めるんです。―結婚相手だって」
ぎゅっと、拳を作って握る。そして、殴っちゃってごめんなさい、と頭を下げた。
「…君は。どうして、そんなに強いんだ…?」
彼が先程とは別人のように細い声で言った。
私は首を左右に振る。
「本当は強くなんかありません。私には、いつも味方がいたから。…その人たちを、信じることで強くいられるんです」
「…私には、そんな人はいなかった」
「お姉さんがいたんじゃないですか…?」
問いかけるように言うと、彼は我に返ったように言った。
「でも、姉は死んでしまった。―彼女は、体が弱いのに家のために無理をして働いていた。…家名に、殺されたようなものだ。それなのに、愚痴一つ零さなかった。それどころか私に心配を掛けないように無理に笑って―」
苦しそうに額を押さえた。―これが、本来の彼なのかもしれない。
「…だから、家のために生きようとしてるんですか…?お姉さんの遺志を継ぎたくて…」
彼は首を振った。
「そんな大層なものじゃない。私は、汚い、強引な方法で吉羅財閥を大きくしてきた。ただ、家に復讐したかっただけかもしれない」
すこし迷って、彼の手を、そっと取った。驚いたように私を見る彼。
「優しいんですね、吉羅さん」
「―何を、言って―私は、君を利用しようと…」
「いえ、優しいです。…優しいから、そんな風に傷付いてしまったんですね。助けてあげられなかった自分を責めて。自分を悪者にして。そうすることで、お姉さんに償いたかったんですね」
その手をぎゅっと握る。
「でも、お姉さんはそんなこと望んでないと思います。貴方は貴方の好きなように、生きて欲しいとそう思っていると思います」
「…君に、姉の何が分かるのかね」
「分かりません。…でも、同じ女の子としては分かるつもりです。貴方に、いつも笑いかけていたのでしょう?…大切な人には、いつも笑っていて欲しいんです。いつも、幸せでいて欲しいんです。だから―」
ふわり、と笑う。
「自分に、正直に生きていいと思います」


「―君は―」
彼が私に手を伸ばす。だが、その手は虚空を切った。
私の両肩が、誰かの手によって引き寄せられたからだ。
大きい手。温かい熱が背中を通して伝わってくる。安心できる、私の居場所だ。
「そこまでだ。吉羅暁彦」
大好きな、低音の声が耳元で響いた。
「お嬢様は、返してもらう」
振り返ると、やはりヒロトだった。いつも常にきちんと上着を着ているのに、今はシャツにベスト、という軽装だ。しかも、ネクタイは乱れ、額に汗を掻いている。
「遅くなって申し訳ありません、お嬢様。実は、天羽邸に」
「香穂〜〜〜!!!」
その時、校舎の方から、菜美が走ってやって来た。何故か、泣いているようだ。
私の両手を取り、ぎゅっと握った。
「ごめん!!」
「菜美?」
「金澤さんから全部聞いたよ!!…私、父親が新聞に載せるのに舞踏会の写真を使いたい、って言うから、やっと私の写真を認めてくれたのかって喜んで渡したんだけど…まさかあんなことに使うとは知らなくて…本当にごめん」
―吉羅の話は嘘だったのだ。全身の力が抜ける。
「父親には、きつく言っておくから!!…本当に、ごめんね」
首を左右に振る。
「ううん。私の方こそ、菜美を巻き込んじゃってごめん。写真、ありがとね。…綺麗に、撮れてた」
私じゃないみたい、と笑いかけると、菜美はありがとう、と泣きながら抱き付いてきた。内容はともかく、写真は本当に綺麗に撮れていると思った。
「…お嬢様。天羽様と、駐車場へ。そこに車が止めてあります」
「え…でも」
「私は、彼と話があります。…直ぐ参りますから」
にこり、と笑いかける。…一瞬躊躇して、それでも頷いて菜美を促す。
一度吉羅に視線を送ると、彼は一瞬私を見て、寂しそうに目を細めた。
私は視線を逸らせて、歩き出した。




「―久しぶりだな、吉羅。…ここに2人で来るのは、俺の卒業以来か」
「…ええ。最後にお会いしたのは、姉の、葬儀です」
ふわり、と風が吹き抜けた。まるで、目を閉じればまだ3人がそこに居るように、記憶は鮮明だ。
「良く、この場所で俺とお前さんと美夜、3人で昼飯食ったよなあ」
「………」
「バカな話してさ、笑って…その頃のお前さんは、こんなことする奴じゃなかった」
「…金澤さん。私は…」
「一つだけ聞きたい。俺が、彼女の執事だったから、彼女に手を出したのか」
「逆です。日野家を調べたら、貴方が彼女の執事だった」
「何故、こんなことをした?…そんなにショックだったか、美夜の死が。お前さんにこんな汚い事をさせる程―」
吉羅は、首を左右に振った。
「…貴方には、分からない。星奏学院を卒業して、家業を継ぐことを否定して、イタリアの執事養成学校へ入学した貴方には―」
「家業は、出来の良い妹が婿とって継いでくれると思ってたからな。…そうだな、俺は勝手な奴だ。家が嫌で、自分の好きな道に進んだんだからな。…だがな」
吉羅の襟首を掴んで、睨みつけた。
「香穂子お嬢様にこれ以上何かすることは俺が許さない。…もしそれでも何かするというのなら、その時は、覚悟しておけ」
ふっと笑って、俺の手を払った。
「…貴方は、彼女によって過去の痛みから解放されたのですね」
―古い話だ。口の端を歪める。
「おう。うらやましいだろ」
「…愛しているのですか、彼女を」
「な、何言ってるんだ、お前さん!?」
吉羅は、意外というふうに目を細めた。
「…成程。10年という月日は、貴方をそんな風に変えたのですね。昔は、沢山の女性を次々と…」
「お前さん、それお嬢さんに言ったら殺すぞ」
「…彼女は、不思議な人ですね。とても、大企業のお嬢さん、とは思えない。…姉に、良く似ている」
そう言って、遠くを見る。
「彼女に、今回の件は全て私が仕組んだことだと言いました。…それでも、私のことを優しい、と言ってましたよ。自分に正直に生きれば良い、とね。…自分を陥れようとした男に」
「…俺が、お育てしたお嬢さん、だからな」
吉羅は、ふっと息を漏らした。
「ええ。なら、そうさせてもらいます。…とりあえず、彼女を不正な手で手に入れるのは止めます。正当な手で、堂々と手に入れる」
…何?今なんて言った?
「どうやら、彼女に本気になってしまったようです」
「お前さん、それは…」
「金澤さんは、彼女と将来を約束しているのですか?」
返事に、ぐっと詰まる。
「…そうでしょうね。今の立場では、手を出したくても出せない、そんな所ですか。難儀な立場ですね。それなら、私にもチャンスはある」
面白そうに笑う吉羅に不快な顔をする。本気になったこいつ程、性質が悪いものはない。
「とりあえず、これ、お返ししておきます」
何か白い布のような物を俺に押し付けた、と同時に耳元で囁く。
「…まだ、彼女には何もしていません。安心して下さい」
そう言うと、片手を軽く挙げて去っていった。その後ろ姿を見つめる。
手の中の物を広げてみると、香穂子の誕生日に自分が名前を刺繍して贈ったハンカチだった。




菜美を送って、やっと日野邸へと戻って来た。その間、ヒロトは一言も口を聞かなかった。
自室に入り、私に椅子を座らせるとやっと口を開く。
「…お茶を、お持ちします」
そう言って扉の方へ歩き出す背中に慌てて呼び掛けた。
「―ちょっと、待って。…何か、怒ってる…?」
そう尋ねると、ヒロトは背中を向けたまま言った。
「―ああ。怒ってる」
くるり、と向き直ってこちらへ歩いてくる。
「どうして、勝手に屋敷を出てったりしたんだ?何故一言俺に言わなかった?どれだけ、心配したか…」
その剣幕に圧倒される。こんなに彼に怒られたのは久し振りだ。やがて、彼はぽつりと言った。
「…そんなに、俺は頼りないか」
「―ちがう!!私はただ、自分でなんとかしなくちゃって…」
その言葉に、瞳が暗く翳る。彼は私の前に跪いて、両手を、握った。
「―頼むから、俺を、頼ってくれ。そうじゃないと、自分はもうお前さんにとって必要の無い人間じゃないかと疑いたくなる。…もう、一人で何処かへ行ったりしないでくれ。頼むから」
ぎゅっと強く、私の手を握り、懇願するように額に押し当てた。
―こんな彼は、初めて見る。何処か痛みを堪えたような、沈痛な顔だ。それでも、手から伝わってくる温度が、温かくて気持ち良くて。
「…ごめんなさい」
そっと片手を離して、ヒロトの髪をそっと撫でた。彼は吃驚したように私を見る。
「―私は、ヒロトがいないと何にも出来ないよ。髪だって整えられない。…だから、必要無い、なんてそんなこと言わないで。私のとっての執事は、貴方一人だから―」
―そう。私にとって執事は貴方一人。朝起こしてくれるのも、学校へ送ってくれるのも、怒られた時探しに来てくれるのも。全部全部、貴方じゃなきゃ意味が無い。
だから、ずっと側にいてくれる?
彼は私の手の中でそっと、かしこまりました、と呟いた。




星奏舞踏会も終了し、学院は元の日常へと戻った。
森の広場。あんなことがあったのに、私は昼休みになるとやっぱりこの場所に来てしまう。
―何故なら、この場所が好きだから。
この場所が特別な場所だった、と言った彼は、その後何も接触はない。
二度と会うこともないだろう、と思う。
それで良い、と思うのに。
何故か、一人になると時々彼のことを思い出してしまう。あの、寂しげな瞳が忘れられない。
―きっと、あんなに自分の好き勝手なことをぶつけてしまったから、気になるのだろうと、考えを振り払うように頭を左右に振った。
「―君は、見てて飽きないな」
いきなり聞こえた声に吃驚する。―この、声は。
「…吉羅、さん」
「失礼するよ」
彼はスーツが汚れるのも構わず、私の横に腰を降ろした。
「…ど、して、ここに…」
「星奏学院の経営悪化に伴ってね。今度、我が財団が再建に乗り出すことになった」
「は?それって…」
彼は、私に微笑みかけると言った。
「つまり、今日から私がこの学院の理事だ。宜しく頼むよ」
初めて、きちんと笑った顔を見たのだと思う。それよりも語られた内容の方が衝撃的で、思わず言葉を失う。
「え?………えええええええええ!?」
「君は、私に正直に生きても良い、と言った。だから、そうすることにした。…その責任を取ってもらいたい」
「はい?責任て…」
「君が好きだ」
―は?今なんて。
「今すぐに返答を、とは言わない。ただ、君に知っていて欲しくてね。…ああ、そろそろ時間だ」
彼は立ち上がってスーツの埃を払った。歩き出してから、私を振り返って背中越しに言った。
「では、また。…今度は本気だから、そのつもりで」
校舎の方へ歩き出してゆく背中をただ、見つめることしか出来なかった。
ようやく予鈴の鐘が鳴って、やっと我に返って校舎の方へ走り出したのだった。









<あとがき>
はい。やっと終わりました。吉羅さんが非常に偽者っぽいし、設定捏造しまくりです。ごめんなさい。吉羅さんファンに怒られるんじゃないかとびくびくしてます。
ヒロトの過去話とかも書きたかったのですが、これ以上捏造するのもどうかなあと思うので、とりあえず完結です。
読んで下さってありがとうございました!



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