※注意※
・このお話は、ちょっとだけ吉羅理事長とVS風味になっております。
理事長がお好きな方はご注意下さい。





















オーケストラコンサートの成功から少し経って。
星奏学院の卒業式も、終業式も滞りなく終了し、世間は春休みに入った。
それと同時に俺も教師としての責任を一応果たし、今年度の勤めを終え、申請通りに長期の休みをもらえた。
−そう、明日の朝。
俺は、日本を発つ。




革命前夜 (前編)




「あの頃の金澤先輩は、本当に滅茶苦茶な人でしたね」
「へー、そうなんですか」
「おいおい、吉羅よ、いい加減なことを言わんでくれ。日野が信じるだろ」
俺が喉の検査で渡米する前夜、吉羅と日野がささやかながら壮行会(?)を開いてくれた。
別に検査に行くだけなんだから大げさな、とも思ったが、ここはひとつ二人の厚意に甘えてやるとするか。
という訳で、去年の秋の初めに吉羅と久しぶりに再会し、計らずも三人で行ったあのバーで食事をすることになった。
カウンターに俺を中心にして右に吉羅、左に日野、ビールから始まって(日野はもちろんジュースだ)軽い食事をとり、今は大人組はブランデーにウォッカ、という具合だ。
「先生、そんなことしてたんですか!?」
「もしあの時に私が理事長だったら、即刻退学でしたね」
「おいおい、物騒なこと言うなよ」
吉羅も俺もいつも以上に酒が回ってか、かなり饒舌になっていたと思う。
「金澤さん、もし検査の結果が芳しくなくても、必ず戻ってきて下さいよ」
「ああ、お前さん、何回それ言うんだよ。分かったって。大分酔ってるだろ」
こんなに酔ってる吉羅は久しぶりに見るな、と苦笑しつつ吉羅をなだめる。
「本当にあなたっていう人は、何をしでかすか分からない人だから。…日野くんも、ちゃんと言い聞かせておいたほうがいい」
と、日野を見る。
「ったく、日野にまで説教されたら俺も教師としておしまいだな…」
と軽口を叩きながら、そうですよ、先生!!ちゃんと帰ってくるんですよ、なんて冗談交じりの返事が返ってくるのを期待して日野を見たのだが。


真剣な顔して、うつむいた日野の顔に一瞬肝が冷える。
両手は膝の上でこぶしにして、ぎゅっと結ばれていた。


「…日野?」
呼びかけると、ハッとしたように顔を上げ、笑顔で言った。
「そーですね」
吉羅は、日野の変化に気付かなかったのか、そのまま話題を転換して話し続けた。
その後は、先程のようなこともなく、いつもの呆れるくらい元気の良い日野だった。




時間はあっという間に過ぎて、そろそろ日野を送っていかなくてはマズイ時間になってきた。
「おい吉羅、今日の足は?」
「車を回すよう手配してあります。良ければ日野くん共々金澤さんも送って行きますが?」
「そりゃありがたい。…おい、日野。そろそろ帰るぞ…って日野?」
そこで初めて日野の異変に気付いた。
−顔が赤い。
目は何だか潤んで、充血しているし、呼吸も荒い。
…まさか。
俺は、自分のグラスを見た。
−やられた。
そこにはグラスの8分目まで入っていたはずのブランデーが、きれいさっぱり無くなっている。
吉羅の方を向いている時に飲んだな…!!
「おい、日野!!お前ってヤツは…!!」
思わず肩をつかむと、首がまるで人形のようにがくんと、前に折れた。
「先生の…バカ」
うわ言のようにつぶやく。
はあ!?バカはどっちだ!?
吉羅は、椅子から立ち上がって日野と俺の前へ立つと、ため息をついた。
「ああ、この様子じゃ自宅へは送っていけませんね。飲酒したことが親御さんに知られてしまう」
「はあ?じゃあどこへ送っていけばいいんだ?」
「金澤さんのアパートで少し休ませたらいかがですか。せめて自分の足で歩けるようになるまで」


………そりゃ、マズイ。


「吉羅…」
「別に我々の保身の為に言っているのではありませんよ。年頃の娘がそんな状態で帰ってきたら、親御さんがどんなに怒り、心配するか」
「お前なあ」
「幸いなことに、そうたいした量は飲んでないようです。1時間も休ませれば意識も正常に戻ると思いますがね。まさか、そんな状態の彼女に手を出すほど分別をわきまえてない訳ではないでしょう?」
「…怒るぞ」
「でしたら、何の問題もないはずですがね」
俺は、肩をつかんだままの日野を見た。
起きているのか、寝ているのか、目を閉じたままぐったりとして動かない。
「…なんでしたら、私が彼女を預かってもいいんですがね」
思わず吉羅の顔を仰ぎ見る。
予想外に真剣な眼差しに、思わず驚く。


「…断る」
吉羅は、あの嫌味な笑顔で言った。
「やっと本音を言いましたね。それでいいんです。…そんな風にさせないようにしてあげたらどうですか?…ああ、車が来たようですよ。行きましょうか」
吉羅は会計へと向かう。
俺は、ため息をひとつつくと、日野を抱え上げた。
「…う…ん」
日野は相変わらずぐったりとしている。
少し不安になりつつも、吉羅の待つ入り口の方へと向かったのだった。










<あとがき>
長くなってしまったので読みづらいだろうと、前後編にしてしまいました。
後編も読んでいただけると嬉しいです☆

後編




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